家族でキャンピングカーを傷つけまくるという初の体験
2020/08/01
キャンピングカー全塗装前の足つけ作業
「どうしよう。僕の番がまわってくる」
目の前では、一人、また一人と成功して嬉しそうな声が聞こえてくる。
その声を聞く度に僕は胸が締め付けられた。
「お腹痛いと言って、列をはなれようかな」
とまで考えた。
でもそれを言い出す勇気もなく、とうとう僕の前には人がいなくなった。
みんなが見ていた。
行くしかなかった。
ゆっくりと走り出し、加速した後両足を揃えた。
そして両手を出して思いっきり空中を飛んだ。
気がつけばマットの上に両足を揃えて笑顔で立っていた。
その笑顔は嬉しさからではない。
「跳び箱って、こんなに簡単だったんだ。怖がっていた時間がもったいなかったな」
という思いから。
それからは、跳び箱は得意種目の一つに。
体育の跳び箱の時間が楽しみになって、小学6年では学校にある一番高い跳び箱まで飛べるようになったのだった。
そんな小学校の思い出から、今日は始まる。
「車を削っていくの?」
僕は不安しかなかった。
4月にキャンピングカー仕様のハイエースを買い、自分達で全塗装しようと舞と話していた。
「車を自分達の好きな色にできるなんて最高やね!」
と何も調べずに気軽に言ったのが本音だった。
それから旅の準備のために宮崎に拠点を移し、ゆっくり車の色ぬりのことも調べていった。
調べた先にすぐ出て来たのが、”足つけ”という聞いたこともない言葉。
「足つけは車をサンドペーパーで削っていく作業のことだよ」
舞ちゃんは既に全行程を調べ済みで平然とした様子で教えてくれた。
「削る???」
僕は戸惑った。
車に自ら傷をつけていくの???
失敗したら元に戻せるの???
その前にこんな大きな車の屋根まで全部???
頭の中が不安でぐるぐるなった。
「素人の僕らが本当に車の全塗装なんてできるの?」
自分達がスムーズに作業しているイメージが全く掴めないのが、何よりの不安なことだった。
それでも今日はやって来た。
車を削る日がやって来たのだ。
昨日ホームセンターで買った車のステッカー剥がしとサンドペーパーを用意した。
加えて家にあった脚立とあかりちゃんの水遊び場もセットする。
準備は万端。
あとは車に傷をつけていくだけ。
先に舞ちゃんが行った。
躊躇なく車を削っていく舞ちゃんを見て、頼もしさを感じた。
次は僕だ。
ドキドキが止まらなかった。
「あかりちゃんはどうしているかな?」
と削る前ことから遠ざかろうともしてみた。
だが、あかりちゃんは一人で楽しく水遊びを満喫していた。
やるしかない。
前に進むんだ。
心を鼓舞した。
そして僕は小学校1年生の跳び箱を飛んだ時のように、ゆっくりと足を出し始めた。
前に進み、車のバックドアの正面に立ち、サンドペーパーを持った右手をボディにのせた。
次の瞬間、僕は思いっきり車のボディを削ったのだった。
「なんだ。車を削るのってこんなに簡単だったんだね」
お昼休憩の時に舞ちゃんに話した。
削る前はあんなに不安だらけだったのに、一度やってみたら不安なんて吹っ飛び、楽しさだけが心にあった。
あっという間に時間が過ぎ、1日でハイエースの屋根まで全部削り終わった。
実際は、僕より舞ちゃんの方が多く削った。
しかもずっと綺麗に。
車の上もヒョイっとおさるさんみたいに軽快に登りスイスイっと削っていった。
僕はそんな真似はできなかった。
それどころか時々、傷つけてはいけないところも少し傷つけてしまった。
でもいいのだ。
僕は今まで未体験だった”車を塗装するための足つけ”を経験することができた。
おまけに車のステッカーやエンブレムまで剥がすこともできるようになった。
次回足つけをする機会が来ても、もう僕は何も怖くない。
不安が来るのは、自分がまだ経験していないから。
ならば不安が来たらすぐに経験してしまえばいい。
意外と跳び箱を跳んだあとみたいに、「なんだ。こんなに簡単だった」と拍子抜けすることの方が多いことに気づけるはずだから。
Photo & Written by 溝口直己