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まんまるくらし園の撮影

本気の作戦会議やったことある?

2020/11/13

本気の作戦会議やったことある?

「今日は!どこで!何を!したいですか?!」

円の中に入った僕らの周りで、ちっちゃな冒険家たちが笑顔で叫んでいた。

僕たちは山の奥の奥にある、フリースクールの見学に来ていた。

「日本の教育がもっと知りたい」

と最近舞ちゃんとよく話していた頃に、公園で仲良くなった親子がなんとフリースクールに通っていて、

「見学行ってみる?」

とすぐに園長に電話してくれ、僕らははじめてフリースクールの見学をさせてもらえることになったのだ。

朝8時半にマムシの湯という温泉の第二駐車場に集合と聞いて、僕たちは時間通りに向かった。

駐車場に入ると、車が何台か止まっている所になんだかわいわいと楽しそうに話している人たちがいた。

まんまるくらし園の朝

「この前こっち見てた方ですよねー?笑」

と第一声に声をかけられた。

そう。実は2日前、4日ぶりの温泉に入ろうと立ち寄ったときに、第二駐車場で大人も子どもとてもきゃっきゃ笑って遊んでいる集団がいて、もしかしたらと思って見てたら、向こうもこっちをめちゃめちゃ見ていたことがあったのだ。

後から聞くと、紹介してくれたお母さんが「日本をキャンピングカーでまわっている人が見学にくるよ」と伝えてくれてたとのことだった。

車を降りると、そこにはキラキラとして目で楽しそうに話す、少年のような大人たちがいた。(子どもたちは思いっきり走り回って遊んでいた)

「小学校を作るいい土地、早く見つけたいねー!」

「今度ユンボ買うから、どんなとこでも開拓できるよ!」

「まんまる小学校、楽しみすぎるー!」

楽しそうに会話をしている園長の愛ちゃんや子どもたちのお父さん、お母さんたちを見て、出発すらしていない第二駐車場ですでにわくわく。

そんな見学のスタートで、僕らはスタッフのまっちゃんの車に乗り込み山奥の保育園へ向かった。

車は飛び跳ねながら、ガタガタの狭い一本道を登って行く。

時々、木々の隙間から見える糸島の海は、青空のおかげか、この旅の始まりの高揚感か、さらに綺麗さを増していった。

そうして辿り着いたフリースクールのまんまるくらし園は、知る人ぞ知る秘密の基地のような場所だった。

着くなりまっちゃんがギターを手に取り始まった大演奏会。

一人はカホンにまたがり足で音を奏で、一人はよさこいのかちゃかちゃを持って踊りだす。他のみんなは走りまわったり、柱を登りだしたり。

まるで劇団四季の舞台を見ているかのように、それぞれ個性がはっきりと強く、そして表現が自由だった。

まんまるくらし園の始まり

まんまるくらし園の撮影

その空気感がとても好きで、僕は何度もシャッターを押した。

「あー!いー!うー!ベー!」

右手の5本の指を、左足の5本の指の間に入れて、グリグリっと回しながら顔全体と一緒に動かして行く子どもたち。

それが終わると作戦会議というものが始まった。

まんまるくらし園の作戦会議

作戦会議?

そんなものが僕が行ってた保育園であっただろうか?

目の前で始まった作戦会議は、その言葉通り今日やることを子どもたちが自分たちで決めていく会議だった。

ここでみなさんに聞いて見たいことがあります。

“保育園の時に、今日やることを話し合いで決めた思い出はありますか?”

“保育園だけじゃなく、小学校や中学校、大人になってからも、集団で自分たちがやることを自分よりも上の人がいて、最後まで多数決もせず話し合いで決めたことはありますか?”

思い返してみると僕はなかった。

中学校の頃、文化祭で何を歌うかを決める時は、話し合いでは決まらず、

「じゃあ多数決で決めるぞー!」の先生の一言で歌が決まった。

京都で20~60代くらいまでのカメラマンや地域の大人たちが集まった、撮影場所のマナー向上を図る話し合いでは、ものの見事に多数決が行われた。

多数決が悪いという意味ではなく、ただ僕らは集団になったときの話し合いの終わらせ方として、ほとんどが多数決、もしくは力のある上の人の意見が通るという終わらせ方しか知らなかったのだ。

だが、目の前の3歳から5歳までいる子どもたちは違った。

「今日は!どこで!何を!したいですか?!」

声を揃えて大声で言った後、「はい!!!!」と一斉に手を上げていく子どもたち。

まんまるくらし園の日常撮影

「僕は〇〇さんの田んぼに行きたいです!そこで水遊びをしたいです!」

「私は〇〇神社に行って鬼ごっこをしたいです!」

みんな自分の意見をはっきり周りに伝えていく。

愛ちゃんやまっちゃんたちはみんなの意見を一つ一つ丁寧に聞いていく。

それからみんなにいつもとはちょっと違うことを伝え助言していく。

「今日は、1歳のあかりちゃんが来てるよね。田んぼと神社は歩いて片道1時間くらいだし、あかりちゃんは歩いて行って戻って来れるかなー?」

そうすると

「赤マイセンターはどうかなー?」

と一人の子どもが提案し、他の子どもたちも「私も赤マイセンターがいいと思う!」と賛成していった。

でも一人だけはどうしても田んぼで遊びたいという。

その状況でも、決して愛ちゃんたちは多数決という方法を選ばずに、

「〇〇はどうして田んぼに行きたいの?」と丁寧に聞いていった。

「田んぼで鬼ごっこしたいの」というその子に、

「田んぼなら赤マイセンターでもできるよ!」と他の子が教えてあげ、「赤マイセンターに行く!」と最終全員一致で行き先が決まったのだ。

一連の流れを書いてみて、一見どこでもやってそうな会話だが、世代を超えてもなかなかこんな会話は行われていないと思う。

全員が自分の意見をはっきり言える、安全安心を担保された環境づくり。

みんなの意見を丁寧に聞き、的確な助言を言える年配の方の存在。

一人だけの意見も決して見逃さず、全員が納得するまで話し合う尊重の形。

そのエベレストのような最高峰の話し合いが、このまんまるくらし園では行われていた。

しかも聞くと毎日だ。

時には、この話し合いだけで1日の大半を使うこともあるという。

それでも愛ちゃんたちは、誰かが納得していない状態で、作戦会議を終わらせることはせず、全員の意見が一致するまで子どもたちを見守っているのだと。

素晴らしいという言葉では表せないほどの包容力を持ったスタッフといる子どもたちは、自分の全てを解放していいんだという絶対的な安心感の元で伸び伸びと過ごしていた。

フリースクールの外遊び

「ここの大学に行かせたいから将来不安なフリースクールは……と見学に来られたお母さんから言われたんです。でも見てください。この子どもたちの笑顔を。今こんなに笑顔で走り回って、イキイキして、それだけでいいじゃないですか。将来より今のこの笑顔を大切にしたい」

愛ちゃんが話してくれた言葉が、想いがすっと入ってきた。

道に落ちているざくろをみんなで囲んで食べたり、

帽子をどこかにやってしまった子の帽子をみんなで一所懸命探したり、

マムシの子どもがいて(死んでいたけど)、みんなで近づいて本を開きながら「マムシかなー」と確認しあったり。

3歳の子の怪我した手に、さっと5歳の子がよもぎを見つけ塗っていたのには驚いた。

落ちているザクロを食べる保育園生たち

フリースクールの撮影

ここでの体験を通し、自然の一部となって生きるちっちゃな冒険家たちを見て思った。

「この笑顔がきっと周りの人たちを変え、世界を変えていくんだろうなー」と。

まだ見えない将来よりも、まだ来ていない明日よりも、今をとことん楽しんじゃえ!

と体全身で表現する子どもたちは、何よりの先生だった。

 

溝口直己

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