失敗ウェルカム!~キャンピングカーの全塗装前半~
2020/09/02
人生全ては実験
ががががががが!!
威勢良くネジを外す音が工場の中に響き渡った。
いよいよ今日は待ちに待ったキャンピングカーの全塗装。
僕らは作業に集中するために、あかりちゃんをはじめて保育園に預けた。
今まで一回も、誰にも預けたことはなかった。
だがこの全塗装の作業だけは、あかりちゃんと僕らの3人で行うことは不可能だと思い預けることにした。
寂しさはあったが、保育園に預けてあかりちゃんがどんな風になるか楽しみでもあった。
8時に保育園に一緒に向かい、預かり保育の説明を聞く。
最初はあかりちゃんはどうなるか分かっていない様子だったが、徐々に舞にぎゅっとしがみつくようになっていった。
「じゃああかりちゃんをお願いします」
といって保母さんにあかりちゃんを抱っこしてもらった瞬間に、あかりちゃんが泣き出した。
舞も僕も泣きそうになりながら後ろを向き、車に走っていった。
「早く迎えにいってあげよう」
僕らの想いは一つだった。
買い出しが終わり、準備は万端。
作業させてもらえることになった舞の弟の優くんの工場へ向かった。
作業開始は10時。
「うまくいけば4時くらいには迎えに行けるんじゃない?」
と笑って作業がスタートした。
だが、まったく甘いものではなかった。
全塗装をするにあたって僕らは2色で塗装することに決めた。
メインの車体はオールドブルーシーという色。
前後のバンパーはミルクティーベージュという色。
そこで外せるものは全て外してしまって、塗ってはいけないところはマスキングでカバー。
両方の色を塗りやすい形にしてから塗って行こうという流れになった。
まず僕が取り掛かったのは、フロントバンパーを外していくこと。
バンパーはプラスティックのネジと鉄のネジの両方で止まっていた。
手ではもちろん外れない。
マイナスドライバーを差し込んでもうまく抜けない。
ネットで調べて見ると、一回使い切りのネジで、うまくやれば抜けるけど壊した方が早いと載っていた。
必死になって壊していったが一つとるのに5分ほどかかり、15個くらいあったのですでに1時間経過していた。
バンパーは残り3つの鉄のネジを外せば、取れる状態。
工場には必要な機材が全てあり、ネジを電動で外せるインパクトという機材を貸してもらった。
「電動があってよかったー。手作業で時間がかかってしまったが、今から挽回や」
と一人嬉しくなりながら、ネジを回して行った。
「おー。取れる取れる。なんかはじめて見るネジだな。短くて、先がなんかねじってあって。こんなネジもあるんだなー」
ネジを作った人に感心しながら、僕は二つのネジを簡単に外した。
そしてラスト一個のネジに取り掛かったが、それがなかなか外れない。
回しても回してもから回っている状態で、全くネジが出てこない。
舞を呼び、そして仕事中の優くんにも来てもらい、ネジを見てもらった。
見た瞬間
「回す方向が逆になっちょる!ネジ穴が溶けてしまってとるよ!」
と優くんが言った。
そんな……
そんなはずはない……
だって前二つのネジも同じ方向の向きで回して、ちゃんと取れたんやから。
そう思って取ったネジを確認する。
よーく確認する。
さらに顔を近ずけて確認する……
ネジの先っぽがねじれている……
「このネジ、なんかおかしい……」
と優くんに見せると
「これも逆回転で、ネジをちぎっちょる!ほらネジの残りがまだネジ穴に入っとるよ!」
僕は唖然となった。
あまりにも無知すぎて、あまりにも恥ずかしくて今にもその場を逃げ出したかった。
顔から身体中の体液が全て流れ出すんじゃないかと思うくらいに恥ずかしかった。
そんな失敗をしても舞と優くんは笑ってくれた。
「勉強になったし」と笑顔で優くんは、僕が溶かしてなくなってしまったネジ穴まで作り直してくれた。
僕は一緒に笑いながらも、失敗を思いっきり引きずっていた。
「父になって、ネジ一つもろくに外せないのか……」
頭の中で自分に話しかけた。
「男なら誰だってできるようなことを、僕はできないのか……」
永遠と頭の中でループが続いていった。
「こんなこともできなくてごめんなあ」
舞に言った。
すると舞は
「優くんはものづくりのプロだし、鉄のことならなんでも知ってる。なおくんは鉄のことも知らないし、ものづくりもできないけど、写真を撮ったり、文章を書いたりすることはできる。人それぞれ経験してきたことは違うし、できることも違うよ。これからたくさん経験していけばいいやん」
と話してくれた。
その言葉にハッとした。
僕は大切にしていたことを忘れていた。
“人生すべては実験”
たくさん失敗して、たくさん学ぶ。失敗ウェルカム。
そう思って生きてきたのに、ただネジを外そうとしてネジ穴を溶かし、ネジをねじり切ってしまっただけのことで自信を失いかけるだなんて。
失敗ウェルカムじゃないか!
野球の試合中バッターボックスで、絶好調すぎてボールがゆっくりに見え最後まで見ていたら顔面に当たって運ばれていった時、ボールは顔に当たるまで見るものではなく、バットで打つものだと学んだ。
インドでガンジス川に飛び込みまくり足が腐りかけ、ガンジス川にはこんなに飛び込むものではないと学んだ。
アメリカの山奥で「余裕だよー」と言われ、はじめて乗った大型バイクで岩場を駆け上がりひっくり返って死にかけた時、アメリカ人の「余裕だよー」は信用してはいけないと学んだ。
すべては経験。
すべては失敗から始まる経験に意味があるのだ。
もっと失敗を楽しもう!
もっとたくさん失敗していこう!
そう思い出させてくれた舞。
そしてネジ。
ありがとう。
優くん。
ネジ穴を直してくれて本当にありがとうございました。
この時点でお昼の12時を回り、お迎えのタイムリミットまで残り6時間。
前後のバンパーを外しただけで、マスキングも何も終わっていない。
まだ色塗りまでは遠い。
後半に続く……
Photo & Written by 溝口直己