軸がぶれぶれのお坊さん
2019/12/21
お坊さんに会いに
「僕は軸がないことが軸なんです」
お坊さんと工藝家さんの対談を聞きに行った時、しょっぱなお坊さんが口にした言葉だった。
名前は藤田一照さん。
最初は意味がわからなかった。
今まで生きてきて、僕は一つのことをやり続けることが美徳だと教わってきたことが多かった。
小学2年から高校3年までは野球一筋でやっていた。
他にやりたいことが見つかっても一度やり始めたことから離れることは、”逃げ”というレッテルを貼られる時代だった。
それを目の前のお坊さんは「僕ぶれぶれなんだよね~」とニコニコ笑いながら話していた。
こんなお坊さん見たことなかった。
お坊さんに会いにいったのが初めてだったから無理はない。
それでももっとお坊さんは堅いというか、真面目で質素オーラを出していて、いかにも善人のように振る舞っていると思っていた。
でも目の前のお坊さんは、対談している中川周士さんという工藝作家さんの桶の作品を見ながら大きな声で驚いたり、嬉しそうにたくさんの質問をしては腹を抱えて笑っていた。
なんだか心地よかった。
70近いお坊さんが笑って分からないことをたくさん聞いて、「知らなかったな~」と目を丸くして。
こうありたいと思う姿がここにあった。
「軸がないということは道を外せるんです。道を外せるということは新しい道をつくっていけるということ。だから僕はいつまでたってもぶれぶれの人生でいたい」
ああそうか。
だからこのお坊さんは道をつくっていけるのか。
新しいこと、興味があることにはすぐに飛び込む。
自分の心に従いやりたいことを千でも万でもやって、残ることがひとつあればいい。
そう話すお坊さんは、会場にいる誰よりもイキイキとした生の人間だった。
僕の人生も今までブレブレの人生だった。
歌手になると音楽活動を始めたり、ステーキ職人になると神戸牛のステーキハウスに修行に行ったり。
フォトグラファーになった今でもバーベキューインストラクターの資格を取りに行ったりとやりたいことは他にもたくさんある。
今はもっぱら禅に興味津々だ。
でもこれでいいんだ。
僕は僕の新しい道をつくっていく。
ぶれぶれの人生をやっと胸を張って言えるようになった。
「ぶれぶれでいることが僕の軸です!」と。
Written by 溝口直己