実家への帰省は昆虫採集だ!
2019/08/27
家族で九州へ初帰省
つい先日、妻と生後6ヶ月の長女と京都から九州の実家へ帰省した。
長女が産まれてから初めての帰省だ。
家族のみんなに長女を会わせるのが今回の旅の1番の目的で、会った時にどんな顔をするのかとても楽しみであった。
実家には私の両親と妹、そして祖父母がいる。
「祖父母がひ孫と会うのはどんな気持ちになるのだろう?」と思いながら自宅へ向かっていた。
家に着くと母が迎えてくれ、2階の窓からは父が嬉しそうに私たちを見ていた。
父はすぐに外へ出て来てくれ、笑顔で長女を抱っこした。
父とは私が関西に出てからたまに電話をしていたのだが、結婚し長女が生まれてからの電話は声が変わっていたのを思い出す。
「赤ちゃんに会いたか」
いつもより少し声が高くなって話していた父の腕の中に子どもがいる。
自分の子どもを自分の父が嬉しそうに抱っこしていて、帰って来てよかったと思った。
毎年実家へ帰るようになって、私は実家への帰省が昆虫採集へ行くようなものだと思うようになった。
みなさんは昆虫採集をしたことがあるだろうか?
虫取りアミを持って近所の公園にセミを捕まえに行ったり、自転車を走らせ少し遠くの山へ行きカブトムシを取りに行ったり。
家のすぐそばの土を掘り起こしてダンゴムシを捕まえることも立派な昆虫採集だ。
小さい頃は誰でも一回はしたことがあると思う。
その時の気持ちを思い出してほしい。
昆虫採集の前日はワクワクして眠れなく、いつまでたっても布団の中で起きていた。
当日の朝はいつもより早く目が覚めお気に入りのTシャツと帽子を被り、母に大好きなキャラクターの水筒を用意してもらう。
自転車に乗り家を出ると冒険の始まり。
今日はどんな昆虫に出会うのだろう、どんな発見があるのだろうと胸を踊らせ自転車をこぐスピードが早くなる。
昆虫採集のポイントに着くと目、耳、鼻などの五感をフルに使い昆虫を探していく。
木に登って服が汚れたり、川に入りズボンがびしょ濡れになっても全然へっちゃらだ。
そうやって昆虫を捕まえた時の感動は何にも変えれないものだった。
虫かごに入れて家に帰って、飽きずに何時間も見ていた。
そしてまた新しい昆虫の発見に行く日を楽しみにしていたものだ。
その昆虫採集の時の気持ちと実家へ帰省した時の気持ちが似ていると私は思う。
私は旅が好きで18歳から家を出て20歳から関西に住み始めた。
最初の頃は実家へ帰ってなかったが、海外である夫婦との出会いをきっかけに年に一度帰るようになった。
「人は必ず死に向かう」ことと「あと何回両親に会えるのか」ということを教えてもらったからだ。
実家へ帰る日の前日は、久しぶりにみんなに会えるとワクワクして眠れなかった。
帰る日はラフな格好だけどお気に入りの服を着て、お土産を手に空港へ向かう。
飛行機に乗ると、帰ってどんな話をしようかなと一年で嬉しかった出来事を思い浮かべる。
家に着くと帰省の限られた時間の中で一緒に畑に行って仕事の話をしたり、お昼ご飯を食べてからおじいちゃんやおばあちゃんに昔の話をしてもらう。
今まで家族の一人一人が生きてきた歴史を全く知らなかったと驚き、そしてもっと知りたいと身を乗り出して話を聞く。
両目で相手の口やからだの仕草を見る。
一言も聞き逃さないように耳で聞いて、その空気感を全身で受け取る。
私はあらゆる五感を使って会話をしていた。
それは年を重ねるごとに家族がどんなふうに生きてきたのかを知りたい気持ちが大きくなっていき、結婚して自分にも家族が出来てその気持ちはさらに増していった。
初めてひ孫を見た父方のおばあちゃんは、今まで見たことのない笑顔で駆け寄ってきた。
来年で90歳になるとは思えないほどのスピード歩いた来たのを見て、私は驚きを隠せなかった。
家にいても何度も何度も私たちがいる部屋に来ては赤ちゃんと手を繋いでいた。
母方のおばあちゃんも85歳を過ぎ体は弱っているはずなのに、帰る日に会いたいと車を走らせご飯屋さんまで追いかけて見送りに来てくれた。
妻にスカーフやネックレスなどたくさんのプレゼントをバックに用意して。
そんなふたりの姿は今まで生きてきて一度も出会ったことがなく、私にとって家族の新しい発見であり感動的なものだった。
そして今年も実家へ帰省して本当によかったと思った瞬間だった。
よく生きることを旅に例えることがあると思う。
フランスの作家マルセルは「本当の旅の発見とは、新しい風景を見ることではなく、新しい目を持つことにある」といっている。
私にとって実家への帰省とは新しい目を持つことのように思える。
自分が育った家族、環境、そして家族の歴史を知ることは自分の内面に還ることに繋がる。
旅が好きでたくさんの場所へ旅したが、内面に還る時間はどんな旅よりも素晴らしい世界へ連れていってくれるし、自分の新しい発見、そして生きていく道しるべにもなる。
今の時代は、楽しそうなことやワクワクすることはすぐ手に入れられる。
でもそれは一瞬の楽しさで、長続きしないしないものが多いような気がする。
そんな一瞬の楽しさの時間を、少しでもいいから家族と過ごす時間にしてみてはいかがだろうか?
家族に還る旅はどんな旅よりもワクワクする。
それは小さい頃にした昆虫採集の旅のようなものなのだ。
Photographer 溝口直己